傷を受けた組織が回復・再組織化に達した時点でなぜ過剰な増殖に至ることなく再生を完了するかという、再生における素朴な疑問の解明が残されている。私達はHGF-Met系を介した組織再生の研究過程で、無傷の組織ではたとえHGFが結合してもMet受容体はOFFに抑制されていることを見出した。そのメカニズムとして注目しているのがMet受容体juxtamembrane(Jxt)領域である。Jxt領域を欠くMetが天然にも存在するとともに、Jxt領域内Ser985のリン酸化はMet活性化抑制に関与することを明らかにしている。本研究はJxt領域を介したMet受容体抑制(OFF機能)のメカニズムと再生制御におけるJxt領域の生理的意義を明らかにすることを目的としている。本年度は以下の研究成果を得た。 1. 初代培養肝細胞系でSer985がリン酸化された状態ではHGFに依存したMet受容体のチロシンリン酸化が抑制されることを見出した。無傷の肝臓ではSer985がリン酸化されている一方、CCI4による肝傷害を引き金にSer985の脱リン酸化が引き起こされ、それと相反的にMetチロシンリン酸化が引き起こされた。再生のピークを過ぎると再びSer985はリン酸化されることから、Metチロシンリン酸化(活性化)とSer985リン酸化が概ね相反的な制御を受けることが明らかになった。 2. Jxt領域の生化学的・細胞生物学的意義を明らかにするため、(Trk-(+/-)Jxt-Met)キメラMet受容体をTet-ON/OFF制御のもと安定発現する細胞を調製した。 3. ΔJxt-Metを発現するノックインマウス作成のため、相同的組換えを起こしたES細胞からキメラマウスを作成し、キメラマウスの交配によりΔJxt-Met発現マウスを作成し、本マウスでのMet遺伝子発現や病理異常の有無を解析した。
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