DNA損傷に応答した転写抑制は、染色体遺伝子の安定維持のみならず、異常DNAを持つ細胞のアポトーシス、あるいは早期老化誘導に根本的な役割を果たしている。しかしながら、転写抑制機構の詳細についてはほとんど理解されていない。本研究により、DNA損傷に応答した細胞増殖関連遺伝子の発現抑制の分子機構が明らかになり、早期細胞老化誘導機構解明への手がかりが得られたものと思われる。現在、細胞がん化を防ぐ機構…として、1. DNA損傷や癌遺伝子活性化に反応した細胞周期チェックポイント機構の活性化と、短期的な細胞周期停止、2. DNA損傷あるいは過度の増殖刺激に反応したアポトーシス誘導、3.異常な染色体構造を持った細胞の早期細胞老化誘導、の少なくとも3つの異なる機構が存在すると考えられている。このうち、早期細胞老化は良性腫瘍から悪性化する過程において機能不全がおこると考えられており、現在最も重要な癌防御機構と考えられている。本研究は、Chk1-GCN5複合体とPP1ガンマーHDAC3複合体というヒストンH3分子のリジン9とトレオニン11のアセチル化-リン酸化修飾に相反する活性を持つ複合体のE2Fプロモーター上での置き換わりが、早期細胞老化誘導に重要な役割を果たしていることを世界で初めて示したものであり、非常に学術的意義は高いと思われる。今後、これらの複合体を標的として薬物を開発することで、癌細胞に早期細胞老化を誘導する新たな治療戦略確立を目指していきたい。
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