研究概要 |
酸化ストレスが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の初期病態に増悪的な役割を果たすと考えられている。しかし、酸化ストレスがNASH病態の発症に積極的に関与するエビデンスは明らかとされていいない。本研究ではCuZn-SOD欠損マウスを用いて、細胞質酸化ストレスによる肝臓老化の分子機構を明らかにすることを着想し、NASHモデルマウスの肝臓でCuZn-SODを欠損させることで、人為的な酸化ストレス亢進状態を誘起し、NASH病態における病因的役割を調べた。CuZn-SOD欠損マウスとob/obマウスを交配し、2重変異体マウスの作製を進めた。その結果、ob/obマウスに比べて、体重が減少傾向であったが、ob/obマウスと同様に肥満を呈した。肝臓中のトリグリセライド量を調べたところ、ob/obマウスに比べ、著しく蓄積量が少ないことが明らかとなった。以上の結果から、CuZn-SOD欠損マウス肝臓は、摂餌および遺伝的過食負荷による肝障害に対し、耐性を示すことが示唆された。さらに、レプチン受容体欠損マウスであるdb/dbマウスとCuZn-SOD欠損マウスを交配し、別の遺伝性NASHモデルを作るために、2重変異体マウスの作製を進めた。その結果、ob/ob,CuZn-SOD2重変異体マウスと同様に、db/db,CuZn-SOD 2重変異体マウスでも肝臓トリグリセライドの蓄積量が少なく、脂肪肝の改善を示した。さらにCuZn-SOD欠損マウスはメチオニン-コリン欠乏食(MCD食)による肝障害負荷に対する感受性を調べるために、CuZn-SOD欠損マウスにMCD食を10週間与え、脂肪肝が炎症と繊維化を併せ持つ肝炎や肝硬変へ増悪するかどうか調べた。組織学的・生化学的解析の結果、予想外にCuZn-SOD欠損マウスは脂肪肝、繊維化および炎症に対し、耐性であることが明らかとなった。以上の結果から、レプチンシグナル低下によるNASH様病態やCYP2E1を介した肝障害に対し、CuZn-SOD欠損に伴う細胞質酸化ストレスが間接的または直接的に保護的に作用していることが示唆され、酸化ストレスとNASH発症の関連に対し、複雑なメカニズムの存在を提起した。
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