研究課題
我々は、網膜視細胞の運命決定機構の分子機構を解明するために、網膜視細胞におけるOtx2発現制御機構の解析ならびにOtx2蛋白質の機能ドメインの解析を通じて、視細胞の運命決定における遺伝子制御と蛋白質制御の解析を行い、本年度は下記の研究成果を得た。我々は、まずBrdUとIdUを胎生期マウスに投与し、網膜切片の解析から、網膜未分化前駆細胞は最後の細胞周期でOtx2が発現することを見出した。これはOtx2の発現が視細胞運命決定に密接に関与していることを意味する。次に我々は、主にトランスジェニックマウスを用いたin vivo解析でOtx2遺伝子の上流で進化的に良く保存されている500bpの領域が、Otx2の視細胞エンハンサーであることを見出し、さらに、この500bpを含むOtx2発現コンストラクトを導入したトランスジェニックマウスにおいてOtx2 CKOマウスが機能回復されることを見出した。さらに、このエンハンサーにraxホメオボックス蛋白質とHesファミリー分子が結合し、ルシフェレースアッセイによってraxがエンハンサーを活性化すること、Hes1,5がともにその活性を抑制することを明らかにした。さらに、raxの網膜でのタモキシフェン誘導性CKOマウスシステムを作製し、胎生15日においてrax欠損網膜を作成すると、Otx2の発現が特異的に消失し、Otx2 CKOと同様にPax6陽性細胞が著しく増加した。これらの結果から、視細胞運命決定は転写因子raxとNotch-Hesシグナルが視細胞エンハンサーに作用し、最後の細胞周期でNotch-Hesのシグナルがはずれることによって、網膜前駆細胞に発現するraxがOtx2を活性化するという分子機構が明らかになった。これは、転写因子という細胞内的因子とNotchシグナルという細胞外的因子が鍵となるエンハンサーに作用することによって細胞運命が決定されるというコンセプトを明らかにした成果である。
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