1)全長CagAのプロテアーゼ限定分解解析の結果から、CagAはN末端側およびC末端側それぞれにドメイン構造を有しており、CagAのC末端側フラグメントは生物活性を有するが、高次構造を形成しない内因性不規則構造タンパク質であった。一方、CagAのN末端フラグメントを用いた結晶化スクリーニングを行ったところ、タンパク質結晶を得ることに成功しX線構造解析を進めた。当初得られた結晶を用いた解析では、高解像度の立体情報を得ることができず結晶化及び解析条件の検討を加えた。セレノメチオニン置換体のタンパク質結晶を調製し構造解析を行ったところ、非置換体に較べ解像度の改善が見られた。セレンメチオニン置換体を用いたことから、多波長異常分散による分子構造の位相情報を同時に得ることに成功し、CagAN末端領域の概形を示すことに成功した。 2)CagA分子内相互作用に関わる構造基盤の解明を目的として、CagA分子内相互作用に分子機構に関する解析を行った。In vitro再構成実験の結果から、CagAのN末側領域(アミノ酸1-876)におけるアミノ酸配列554-617及び708-821の双方が、CagAC末側領域(アミノ酸877-1186)との分子内相互作用に必要であった。一方、CagAC末側領域配列を基に合成されたペプチドによる競合阻害実験から、CagAアミノ酸配列977-1077に相当するペプチドの存在により、CagA N末側及びCagA C末側フラグメント間の結合が抑制された。アミノ酸配列977-1077領域における一連の欠失変異体を用いた解析から、アミノ酸配列1027-1038に相当する11個のアミノ酸が、CagA C末側領域の分子内相互作用に関わる責任部位であることが明らかとなった。
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