研究概要 |
1.WntがPPARγ(さらにC/EBPα)遺伝子発現を抑制する機序:βカテニンのChIP on ChipからCOUP-TFIIがWnt/βカテニンの直接の標的遺伝子であることを、まず明らかにした。COUP-TFIIの3T3L1への強制発現は脂肪細胞の分化を抑制し、逆にRNA干渉によりCOUP-TFIIの発現を低下させると脂肪細胞に分化しやすくした。さらにCOUP-TFIIが脂肪細胞分化を制御するメカニズムを解析するために、COUP-TFII抗体を用いてChIP on Chipを行った。その結果、COUP-TFIIは脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγ遺伝子の開始コドンを含むエキソンのすぐあとのイントロンに結合することを見いだした。では次にCOUP-TFIIはどのようにしてPPARγ遺伝子発現を抑制するかを解析した。ヒストン脱アセチル化酵素複合体の1つであるSMRTはCOUP-TFIと複合体を形成すると報告されている。私たちはChIPによりSMRTがPPARγのイントロン領域にリクルートされていること、そしてRNAi干渉によりSMRTの発現を低下させると、COUP-TFIIによる脂肪細胞分化抑制が解除されることを見いだした。このことは、COUP-TFIIがPPARγ2遺伝子上でヒストン脱アセチル化酵素複合体のひとつSMRTと複合体を形成すること、PPARγ遺伝子上にリクルートされ、PPARγ遺伝子を脱アセチル化することを示すものである。以上より、細胞外分泌蛋白であるWntが脂肪細胞の分化を抑制するメカニズムとして、核内受容体COUP-TFIIを介し、脂肪細胞のマスターレギュレーターであるPPARγ遺伝子発現をヒストンの脱アセチル化を介して抑制する一連のメカニズムを明らかにした。この成果はProc Natl Acad Sci USA.10, 5819-5824, 2009に掲載された。 2.核内受容体PPARγの標的遺伝子のゲノムワイド解析(ChIP on Chip解析)から、エピゲノムを制御する標的遺伝子の探索を行った。その結果、PPARγによってヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)のメチル化修飾をするSetdb1は転写レベルで負に、ヒストン4の20番目のリジン(H4K20)のモノメチル化酵素Setd8は正に制御される標的遺伝子であることを見いだした。さらに、H3K9トリメチル修飾は脂肪細胞分化抑制に、そしてH4K20モノメチル化は分化促進に働くことを見いだした。以上より、PPARγはこれらヒストン修飾酵素遺伝子のメチル化状態を変えることでこれらの遺伝子発現を制御し、さらにこれを介して脂肪細胞の分化をエピゲノム修飾から制御する経路があることを発見した。この成果はMol.Cell.Biol., 29, 3544-3555, 2009に掲載された。 また、上記1および2の論文はレビューとしてOrganogenesis, 6, 24-32, 2010に掲載した。
|