セッケル症候群は、出生前からの成長障害と重度小頭症・均整のとれた小人症・後退した前額と下顎・額から続く高い曲がった鼻による鳥様顔貌・重度精神遅滞を特徴とする常染色体劣性遺伝病である。これまでに世界で約100例、国内で10数例が知られている。本疾患は遺伝的異質性が知られており、一部の症例でATR伝子に変異が同定された。本研究では、セッケル症候群の病因遺伝子をDNA修復経路上の分子から探索・同定することを目的としている。 日本人セッケル症候群10数例のサンプルを収集し、そのうち2例にPCNT遺伝子変異を同定した。患者細胞に紫外線を照射して分裂指数を解析したところ、M期細胞数の抑制が起こらないことがわかり、ATRシグナル伝達系の異常が示唆された。さらに2例にMRE11遺伝子変異を同定した。いずれの患者もMRE11遺伝子のコンパウンドヘテロ接合体であり、同一のスプライス変異とそれぞれ異なったヌルタイプ変異を持っていた。RT-PCRおよびウェスタンブロット解析により、このスプライス変異から正常mRNAがわずかに転写・翻訳されることが明らかになった。患者細胞で放射線照射後のATM活性化と、p53およびSMC1のリン酸化、Caspase-3の活性化を検討したところ、いずれもAT様疾患細胞に比べて高いレベルを示し、アポトーシスの亢進が示唆された。これは本患者細胞における正常なMre11タンパク質の残存量に依存すると考えられた。以上、本研究によりATRおよびATM経路の異常がいずれも小頭症の発症につながることが明らかとなった。病因遺伝子が未同定の症例の検討が今後の重要課題として残された。
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