本研究において、転写因子TCF8が血管新生時、血管内皮細胞のMETを抑制、あるいはEMTを促進する分子であり、結果として血管新生を抑制することを明らかにした。またTCF8のヘテロ欠損マウスでは、血管新生の亢進を解して、がんがより悪性度の高い表現系を示す環境を提供することを示した。即ち、野生型マウスにおいては非浸潤性で境界明瞭な腫瘍を形成する癌細胞が、TCF8の遺伝子改変マウスにおいては、腫瘍重量が大きく、浸潤性で、野生型では見られなかった肺への遠隔転移を示すことを明らかにした。実際にTGF8ヘテロ欠損マウスで形成された腫瘍組織内の血管新生は亢進していた。 TCF8の機能に関しても、当初の計画に基づき、TCF8をsiRNAでノックダウンしたヒト臍帯静脈内皮細胞をモデルに細胞レベルで明らかにした。内皮細胞が血管新生に動員されるためには、隣接する細胞間接着と基底膜から離脱、基底膜を破壊した後に、周囲の基質と相互作用しながら浸潤する必要がある。細胞間接着能を高分子デキストランの透過性で評価したところ、TCF8のノックダウン細胞で透過性の亢進が認められた。また、基底膜の成分を模倣したマトリゲルを用いた実験で、マトリゲルへの接着能の低下と浸潤能の亢進がTCF8ノックダウン細胞で認められた。以上の結果から、TCF8は細胞間接着や基底膜との接著能を亢進し、基底膜の分解を抑制することにより、血管新生を負に制御することが示された。さらに周囲結合組織への浸潤能をコラーゲンコートしたトランスウェルで検討したところ、TCF8のノックダウン細胞では細胞の浸潤能が亢進しており、同時に細胞外基質分解酵素MMP1の発現亢進が認められた。また、TCF8はMMP1のプロモーター領域に結合することも明らかにした。よって、TCF8はMMP1の発現抑制を介して内皮細胞の浸潤能を抑制する分子であることを示された。
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