癌細胞の上皮間葉移行(EMT)の制御においてRANKLに誘導されるTCF8が口腔癌細胞のEMT誘導と組織学的分化度に決定的因子であることをAmerican Journal of Pathology誌に報告した。TCF8がE-cadherinの発現抑制を介するEMT誘導の鍵を握る因子であることは以前より知られていたが、類似の機能を有する因子群があるため、実際の腫瘍組織中での重要性に関しては議論の余地があった。特に培養細胞を用いた多くの研究においてはSnailが最も強力なEMT誘導因子として位置づけられつつある。我々は、in vivoにおいて癌細胞のEMT誘導を制御可能な実験系を構築することでこの命題に挑戦していたが、生体内においてはTCF8が主要なEMT誘導因子であることを明らかにした。具体的にはヒトおよびマウスの癌組織で低分化型扁平上皮癌、すなわちEMTの亢進を誘導するRANKLの発現量をコントロール可能な癌細胞を樹立することで、in vivoにおいて同一起源の細胞株から組織型の異なる腫瘍を形成させることに成功した。この実験系においてはTCF8の発現亢進が低分化型組織型形成とEMT誘導に必要十分であった。すなわちTCF8はin vivoにおいてEMTを誘導する主要因子であることが明らかになった。一方、TCF8がMETを誘導する血管内皮細胞においては、RANKL受容体RANKガ存在するにもかかわらずTCF8の発現誘導が認められない事から、癌細胞とは異なる細胞内マシナリーを有している事も明らかになった。以上の結果より当初の予定であった同じ分子がEMTとMETの双方に関与する原因の一端を明らかにすることを研究期間内に達成した。現在はさらにTCF8の上流下流因子をマイクロレイでリストアップしており、今後さらなる分子メカニズムの解明も進める予定である。
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