研究概要 |
上皮細胞に発現する細胞膜結合型セリンプ旦テアーゼインヒビターHAI-1とその標的プロテアーゼによる生理活性物質活性化制御と、その破綻により生じる病態を、遺伝子改変マウスや培養細胞を用いて解析した。 (1)HAI-1の諸臓器上皮組織における機能を明らかにするため、条件付きHAI-1 KOマウスの系を作成し、これを用いて、腸管特異的HAI-1 KOマウスを作成した。その結果、近位大腸粘膜における軽度の形態異常と上皮細胞アポトーシス亢進、粘膜透過性亢進を認め、HAI-1が大腸上皮完全性維持に関与することが示された。更に、DSS投与による炎症性腸疾患モデルにおける生存率が低下し、また軽度傷害モデルにおいても粘膜再生が遅れることを明らかにした(Am J Pathol, 2011)。 (2)上記マウスをAPC変異マウスと交配し、APC失活に伴う腸管腫瘍形成におけるHAI-1欠損の影響を検討した。その結果小腸腫瘍形成率が明らかに亢進することを見出した。 (3)癌細胞におけるHAI-1の意義を解明するために、切除された口腔扁平上皮癌(OSCC)組織と培養ヒトOSCC細胞株を用いた検討を行った。その結果、強い浸潤を示すOSCC浸潤先端においては膜結合HAI-1が顕著に減少し、これはリンパ節転移と相関すること、そして、培養OSCC細胞のHAI-1発現をノックダウンすると浸潤性が亢進することを明らかにした(J Pathol in press)。 (4)気管支線毛上皮細胞において、線毛運動調節に関与するチロシンキナーゼ型受容体RONのリガンドであるMSPを活性化する酵素が、膜結合トリプシン様プロテアーゼHATであることを明らかにし、またHATがHAI-1によって制御されることを明らかにした(FEBS Lett, 2012 : J Biochem, 2012)。
|