心筋梗塞おける死因の大部分を占める致死性不整脈の発生に、肉芽組織として出現する非心筋細胞(特に筋線維芽細胞)が関与していることを明らかにするため以下の実験を行った。 1. in vivo scrape-loadin法を用いたラット心筋梗塞境界部における心筋細胞・非心筋細胞間ギャップ結合の機能解析 ラットの冠動脈の結紮により作成した5日目の梗塞心を摘出後Langendorff灌流し、梗塞境界部から約1mm離れた心筋組織にメスで割を入れ、ギャップ結合の通過が可能なneurobiotinを5分間接触させた後、固定(4%PFA)し凍結切片を作成、Alexa488と結合したstreptavidinでneurobiotinを用いて共焦点顕微鏡で蛍光画像を取得した。その結果、梗塞境界部でneurobiotinが心筋から非心筋に移行している像が確認された。また両細胞間の色素移行は、ギャップ結合阻害薬heptanolにより抑止されたことから、両細胞間に存在するギャップ結合が、細胞間移行に関わっていることが明らかになった。 2. 心筋細胞・非心筋細胞間電気的結合の心筋の興奮性に及ぼす影響の解析 ラットの冠動脈結紮5日後の梗塞境界組織から得た筋線維芽細胞と心筋細胞の膜電位をパッチ電極を用いて記録し、両者間の電気的結合抵抗を人為的に作成し、心筋細胞の膜電位に及ぼす影響を検討した。健常な心筋では静止膜電位は約-80mVであるのに対し、筋線維芽細胞では-30~-10mVと分極が弱かった。両細胞間の結合抵抗を2GΩから下げていくと、次第に心室筋の膜電位が浅くなり、同時に活動電位の持続時間が延長、しばしば早期後脱分極が生じた。細胞間結合が30~50MΩで両者の膜電位は一致した。以上より心筋の膜電位は、筋線維芽細胞との間の電気緊張効果により低下し、自発性興奮が生じ易くなることが明らかになった。
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