研究概要 |
本研究により我々が世界で初めて樹立したCa非依存性PLA2ベータ(iPLA2β、Pla2g6)に点突然変異を持つマウスライン(Pla2g6-inad)に関して詳細な解析を進めた。神経系における異常発現のメカニズムを探るべく脳抽出物の脂質成分を解析したところ、2次元電気泳動のレベルではコントロール群と比べて大きな差は認められなかった。一方、同マウスの免疫学的な異常に関する検討として、末梢リンパ組織におけるNKT細胞のサイトカイン産生パターンについて検討を行った。α-galactosylceramideによる刺激でPla2g6-inadマウスの脾臓細胞からはコントロール群に比べて多量のIFN-γ、IL-4,IL-13などのサイトカインの産生が認められた。しかし、Th1,Th2、Th17のいずれかへのシフトは認められず、細胞数の違いによる影響が大きいと考えられた。また、Pla2g6-inadマウスの骨髄細胞を放射線照射した正常マウスに入れる、あるいはT細胞不全マウスにPla2g6-inadマウスの胸腺組織を移植する実験を昨年に引き続き行ったところ、NKT細胞のポピュレーションに変化は生じなかった。また、胸腺内および脾臓内のCD4,CD8細胞の比率にも大きな変化は認められなかった。最後に、乳児型神経軸索ジストロフィーの原因遺伝子として、PLA2G6以外の遺伝子に着目し検討を進めたところ、マウスではある遺伝子の異常でINADフェノタイプが誘発されることが判明した。そこで、OregonのDr.Susan Hayflickとの共同研究で、ヒトINAD患者のDNAを供与いただき、この遺伝子に異常がないかどうか検討中である。もしポイントミューテーション等が見つかれば、PANK2、PLA2G6に続く新たな原因遺伝子として、本疾患の理解を深めることに大いに貢献することと思われる。
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