研究概要 |
【目的】 三日熱マラリア原虫Plasmodium vivaxは系統的にはアジアの旧世界サルマラリア原虫に近縁で、宿主転換によってサルからヒトの寄生虫になったというユニークな進化的背景を持つ。この宿主転換にはゲノム変化が関与していると考えられる。従って、P.vivaxに特異的なゲノム変化を同定すれば、ヒト寄生の分子基盤の解明につながる。本研究ではP.vivaxに特異的なゲノム変化の網羅的な同定を目指し、P.vivaxに最も近縁なサルマラリア原虫P.cynomolgiのゲノム解読、及び、比較ゲノム解析を行った。 【結果】 次世代シーケンサーの導入、及び、実験的手法によってP.cynomolgiのドラフトゲノムを構築することに成功した。既に解読されているP.vivaxおよびサルマラリア原虫P.knowlesiのゲノムとの3種間比較解析を行った結果、約9割のタンパク質コード遺伝子(4633個)が3種間で共通しており、残り1割の非共通遺伝子が各原虫種に固有であった。非共通遺伝子の多くは、ゲノム中に複数のホモログを持つ多重遺伝子族に属していた。特筆すべきは、3種の原虫の宿主赤血球への侵入に関与する分子であるDuffy binding protein(DBP)及び Reticulocute binding protein(RBP)の遺伝子の数が、3種間で異なっていた点である。これは、今後P.vivaxとサルマラリア原虫種の宿主域を規定する分子基盤を解明する上で重要な発見と考えられる。さらに、比較ゲノム解析から、vir,kir,SICAvar遺伝子群の共通祖先の同定やヒプノゾイト形成に関わる候補遺伝子の推定、なども行うことができた。 P.vivaxは、サルマラリア原虫には高い感染感受性を示すニホンザルに対しても感染しない。ニホンザルのDuffy Protein cDNA配列を決定したところ、低感受性のカニクイザルのそれと酷似していることが明らかになった。
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