研究概要 |
胃粘膜に持続感染を引き起こすヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori,ピロリ菌)は、胃炎、消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃がんの原因菌である。本研究では、ピロリ菌による胃炎惹起メカニズムの包括的理解を目指して、本菌と感染宿主との相互作用に焦点を絞り、マクロ的解析、胃内のマクロファージ・樹状細胞の解析、および腸管パイエル板での解析の三つの局面に分けた研究を行った。 (1)マクロ的解析:ピロリ菌の感染成立に重要な体内動態と病原性を理解するために、胃上皮細胞への菌体付着に重要な菌体膜タンパク質アドヘジンを中心として、スナネズミ感染モデル動物内での時間軸に沿ったピロリ菌発現動態と、胃粘膜の発現動態の解析を行った。その結果、感染の経時的進行に伴い、ピロリ菌は菌体自身と宿主の双方の菌体付着に関与する因子群の機能的発現をダイナミックに変動させることで、各感染ステージそれぞれに適した感染の場を自ら構築することを見出した。 (2)胃の反応解析:ピロリ菌がマクロファージに感染した際に活性化するMyD88依存的シグナル伝達に関わる菌体の責任分子を一部局定した。さらに、本活性化に関連するIL-1に関して精査した結果、感染により発現増大するIL-αが感染増悪化に関与することが明らかになった。 (3)パイエル板の反応解析:各種遺伝子改変マウスから調製した樹状細胞と、種々遺伝子改変ピロリ菌を用いたin vitroでの感染実験によって、樹状細胞活性化に関わる宿主因子と菌体因子を一部同定した。現在詳細な分子メカニズムを解析中である。 さらに、平成22年度は、本研究課題が新学術領域「ゲノム科学の総合的推進に向けた大規模ゲノム情報生産・高度情報解析支援」に採択され、現在動物感染モデル用ピロリ菌の全ゲノム塩基配列解析を行っている。これらの解析データと、本研究で得られた結果を総合的に解釈することで、ヒトに病原性を示す上で重要な菌体因子の確定が可能となる。
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