子宮熟化促進薬として使用されているDHEA-Sが誘発する胎児突然死の原因として、胎児または胎盤、またはその両者のDHE-S代謝酵素の遺伝子多型によってDHEA-Sの胎児体内動態異常を引き起こし、心停止に結びつくのではないか、という作業仮説の根底が崩れると本研究は継続できない。そこで初年度は、まず胎児側の要因としてCYP3A7の遺伝子多型とDHEA-S代謝酵素活性について検討を行った。 交付申請書に記載した研究実施計画に基づき、CYP3A7でアミノ酸置換を伴う多型で、酵素機能に影響を及ぼすことが示されているCYP3A7.2の昆虫細胞発現系を初めて構築した。 DHEAの代謝酵素活性を野一生型酵素(CYP3A7.1)と比較したところ、海外の研究者がヒト由来の細胞株で検討した結果と一致し、多型酵素で活性が高かった(Kcatで1.5倍)。このことは本研究で構築した昆虫細胞でのCYP3A7発現系がヒト細胞株由来の発現系と同等に機能することを証明したと共に、DHEA代謝に及ぼすT409R置換の影響として海外から報告されている結果は正しいと考えられた。一方、目的のDHEA-Sの代謝酵素活性を比較したところ、生体内では有り得ない高基質濃度ではDHEA同様、多型酵素では活性上昇が見られたが、興味深いことにDHEAとは異なり、kineticsがsigmoid型に変化し、低基質濃度ではむしろ代謝酵素活性が低いことが明らかになった。非線形分析から求めた回帰式で生理的濃度での代謝酵素活性を算出したところ、野生型酵素の10%程度の活性と推測された。また日本人(n=101)でCYP3A7*2の頻度を調べたところ、allele頻度は19.8%と高かった。二年度目以降、胎盤ステロイドスルファターゼ(STS)の検討を開始するにあたり、産褥時に廃棄されている日本人由来胎盤の入手について、生命倫理審査委員会に申請する研究計画書を作成した。現在、診療科医師を含めて提供の具体的方法を協議中である。
|