α_1-酸性糖タンパク質(AGP)の薬物結合サイトのトポロジー及びvariant間における結合選択機構の解明を目的として、大腸菌を宿主として糖鎖を持たないAGPを作製し、AGPアポ体及びAGP/薬物複合体のX線結晶構造解析を行った。A体に選択的に結合するジソピラミド(DSP)を用いて、C149R/DSP複合体の結晶を調製し、今回明らかとなったA体と、過去に報告されたFl*S体の構造を比較したところ、variant間における112-117位と156位のアミノ酸残基の置換が引き金となり、Fl*S体に比べてA体の結合ポケットの入り口は狭くなっていることが判明した。また、この違いがvariant間における薬物結合選択機構に関与しているものと推察された。加えて、A体/ジソピラミド複合体の結晶構造から、ジソピラミドの結合に関与するアミノ酸を同定し、特に、Phe112とSer114との相互作用が重要である可能性を見出した。さらに、Fl*Sに選択的に結合するイマチニブ、A体選択的に結合するアミトリプチリン、両バリアントに結合するクロルプロマジンとの複合体の構造解析にも成功している。 次に、AGPの肝取り込み経路について検討した。マウスの肝臓におけるAGP親和性タンパク質としてタンパク質Aを同定するとともに、HepG2細胞においてもタンパク質Aが発現し、AGPと結合することを確認した。AGPは濃度及び時間依存的にHepG2細胞に取り込まれたが、4℃の条件下ではほとんど取り込まれなかった。さらに、methyl-β-cyclodextrin及びfilipin前処理によりAGPの取り込みが阻害されたことから、AGPがcaveolae/lipid rafts介在性エンドサイトーシスによって取り込まれること、それに伴い結合薬物の体内動態にも影響を及ぼす可能性を初めて見出した。
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