(1)血球DNAのメチル化とがん化との関連およびメチル化に関与する要因の解析 血液白血球DNAのメチル化の程度を定量的に測定し、がんのバイオマーカーになりうるか、さらに生活習慣がメチル化にどう影響するかを明らかにする研究を行った。性・年齢をマッチさせた胃がん患者(Case)と非がんコントロール(Control)、各299名の血液白血球DNAについて、がん抑制遺伝子TUSC3と、がん促進的なIGF2遺伝子の定量的メチル化解析を行った。TUSC3のメチル化はCaseの方がControlより高く、高齢者と喫煙者ではメチル化が高かった。また、ピロリ菌抗体陽性者は陰性者よりメチル化値が高かった。一方、IGF2のメチル化はCaseの方がControlより低く、高齢者と喫煙者ではメチル化が低かった。以上から血液白血球DNAのメチル化程度は、がんのバイオマーカーになりうる可能性があり、さらに生活習慣により変化することが示唆された。 (2)マイクロRNA miR-181cのエピジェネティックな発現抑制と胃がんとの関連 胃がんにおけるマイクロRNA(以下miRNA)の発現低下とメチル化との関連性を明らかにするため、脱メチル化剤処理した胃がん細胞株を用いて、miRNAの発現プロファイルを調べた。その結果、miR-181cとmiR-432の2つに着目した。RT-PCR法によりmiR-181cは、複数の胃がん細胞株で脱メチル化剤処理による発現増加が認められた。miR-181cは、原発性胃がん組織16例のうち9例で発現が低下していた。miR-181cの機能を検討したところ、Precursor-miR-181cを導入した2つの細胞株で細胞増殖が低下した。cDNAアレイによりmiR-181cの標的遺伝子の探索を行ったところ、NOTCHやK-RASなどいくつかのがん遺伝子のmRNA量が低下していた。以上より、胃がんにおけるmiR-181cの発現低下にはメチル化が関与している可能性が考えられた。また、胃がんにおいてmiR-181cは細胞増殖やがん遺伝子の発現調節に関わるがん抑制的なmiRNAであると推測された。
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