研究概要 |
この研究では、スチレントリマーの内分泌系(甲状腺、生殖器・次世代影響)への影響とそのメカニズムを解析し、健康リスク評価を行い、容器・包装品から溶出するこの化学物質の安全基準を策定して社会に発信することを目的とする。 まず、野生型、芳香族炭化水素受容体(AhR)-nullマウスにスチレントリマーを投与し、血中の甲状腺ホルモンを測定した。野生型マウスではtotal T4の血中濃度が増加した。Free T4も増加しており、total T4の増加は殆どfree T4の増加に依存することが明らかであった。しかしノックアウトマウスにおいてはT4レベルの上昇は見られなかった。この原因を明らかにするために、まず肝臓のT4の抱合に関わる酵素発現を解析した。その結果、スチレントリマーは野生型マウス肝のAhR, CYP1A1, CYP1A2,の発現を抑制し、これらはCYP1Aの薬物代謝活性(エトキシレゾルフィンO-脱エチル化の代謝活性)の低下を招いた。しかし、ノックアウトマウス肝においてはこれらに関しては何ら変化が見られなかった。さらにスチレントリマーは、野生型マウス肝のUDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)の発現を抑制も抑制したが、ノッシクアウトマウス肝にはこのような変化が見られなかった。興味ある知見は、スチレントリマーはAhR-mRNAの発現を低下させるが、核内のAhRの発現は上昇していたことであった。この原因を解明するためにゲルシフトアッセイを行った。スチレントリマーはAhRのXREへの結合を阻害していたので、AhRの核外移行を阻害していることが推察された。 以上の結果を総合すると、スチレントリマーによる血漿中T4の上昇は肝におけるAhRの発現抑制およびそれに伴うT4の抱合酵素であるUGTの活性低下が一因であることが判明した。
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