研究概要 |
この研究では、スチレントリマーの内分泌系(甲状腺、生殖器・次世代影響)への影響とそのメカニズムを解析し、健康リスク評価を行い、容器・包装品から溶出するこの化学物質の安全基準を策定して社会に発信することを目的とする。AhRノックアウトマウスにはスチレントリマーの薬物代謝酵素活性や甲状腺ホルモンの影響は観察されなかったので、野生型マウスのみを使用して実験を行った。 妊娠マウス(C57BL/6N)にスチレントリマーを1日目から17日目まで経口投与した。投与最終日の翌日に解剖して、種々の検討を行った。スチレントリマー投与による雌マウスの体重及び臓器相対重量には変化が見られなかった。雌マウス(妊娠していたマウス)の肝臓でのAhR-mRNA発現量はスチレントリマー低濃度群で減少していたが、AhRの標的遺伝子(CYP1A1-mRNA)には変化がなかった。肝臓のERα発現量にもAhRと同様の変動が観察された。肝臓でのT4の排出に関わり、AhRを介して誘導されるUGT1A1-, UGT1A6-mRNAの発現量にも変化がなかった。妊娠していなかった雌マウスではAhR-, CYP1A1-, UGT1A1-, UGT1A6-mRNAの発現に変化がなかった。性ホルモンへの影響を調べるために、卵巣でのステロイド合成に関わるsteroidgenic acute regulatory protein(StAR)とcytochrome P450 side-chain cleavage enzyme(P450scc)のmRNAを測定した。しかし、妊娠していたマウスの卵巣でのP450scc-, StAR-mRNAには変化がなかった。 スチレントリマーの胎仔への影響も検討した。胎仔の死亡率、胎仔数等や、体重、臓器相対重量、生殖器間距離、脳重量に変化がなかった。性別にも変化を与えなかった。スチレントリマーは妊娠マウスの甲状腺ホルモン脱ヨード酵素(D3)には影響を与えないが、非妊娠まうすのD3-mRNA量を減少させた。
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