日本と中国の都市部においては近年自動車交通量が増加し、それに伴う大気汚染が住民の健康に及ぼす影響が懸念されている。本研究では、日本と中国の都市部で生活している人を対象として、自動車排出ガス等による大気汚染物質への曝露実態とそれによる呼吸器系への影響を検討した。特に、中国の北京では2008年8月のオリンピック開催に伴って積極的な大気汚染対策が実施され、大気環境に大きな変化が見られたことから、平成20年度はその影響の評価を主な目的とした。北京市中心部に居住する住民41名(男18名、女23名、50〜72歳)を対象に、2008年5〜6月、8〜9月、10〜11月、2009年2〜3月にそれぞれ約2週間ずつ、最大呼気流量と1秒量の自己測定を1日2回繰り返し実施してもらい、その間の大気中粒子状物質の変動が肺機能に及ぼす短期的影響を評価した。大気中の粒径10μm以下の粒子状物質(PM_<10>)の濃度は5〜6月には極めて高かったが、オリンピック開催期間中の8〜9月には大きく改善しており、10〜11月には再びやや増加がみられた。5〜6月には、大気中PM_<10>濃度が増加すると男性では夜、女性では朝のPEF値が有意に低下するという関連が認められた。8〜9月には、男女ともにPEF値の変化と大気中PM_<10>濃度との関連はみられなかった。10〜11月には男性の夜のPEF値のみ大気中PM_<10>濃度の増加と有意な負の関連が認められた。これらより、北京における粒子状物質による大気汚染が住民の肺機能に短期的な影響を及ぼしている可能性が示された。日本では東京都世田谷区と兵庫県西宮市において学生を対象とした調査を実施したが、大気中粒子状物質濃度は中国に比べて低く、肺機能への明らかな影響は認められなかった。
|