研究概要 |
内なる必然ともいうべき膠源病のゲノム的しくみを明らかにする上で近交系マウス間交配による感受性遺伝子の解析は極めて有用であるが、従来解析されてきたモデルマウス大部分は、Mus musculus群の一亜群であるM m doesticusであり、そのゲノム多型のプールは小さいく、この亜群間交配での膠原病感受性遺伝子の探索はごく限られた遺伝子しか把握し得ない。膠源病モデルマウスMRL/Mp-lpr/lpr(MRL/lpr)マウスもこの亜群に入る。そのため本研究では、M m domestic usとは約100万年前に分岐したと考えられているM m molossinusから我が国で独自に開発された近交系マウスMSM/MsマウスとMRL/lprマウスと交配を行い、新たな膠原病感受性遺伝子の同定を目的とした。本年度は、MRL/lpr x(MRL/lpr x MSM/Ms)F1マウスを用いて腎糸球体病変のQTL解析を行い、MSM/Msアレルがヘテロで糸球体腎炎抑制効果を3つの遺伝子座、Autoimmune glomerulonephritis MSM resistance1(Agnmr1)、Agnmr2、Agnmr3をそれぞれ第2,4,13染色体上の54cM、54.8cM、13.0cM領域に同定、解析した。その中でAgnmrlに位置するCd59aの腎糸球体での発現がMSM/Msマウスで高いこと、Cd59aプロモーター領域に多型が存在すること、さらにその多型の機能的差異をluciferase reporter assayにて明らかにした。CD59は補体の膜侵襲複合体(MAC)を阻害するGPI-anchored glycoproteinで、以前申請者らはヒトCD59が腎糸球体の血管内皮細胞に発現していることを明らかにしたが、今回このプロモーター多型が、糸球体腎炎の発症あるいは進展に係わることを明らかにした。 コホートの構築愛媛大学医学部附属病院で申請者らが実施する抗加齢ドックの利用者を対象に、動脈硬化性疾患等に関する長期縦断疫学研究を展開した。約350名の臨床データを収集するとともに、採血からゲノムDNAを抽出してバンク化した。過去の収集分を含め、総計が1,000例以上に達した。 ベースライン調査一般臨床検査項目に加え、代謝・動脈硬化性マーカーとしてアディポネクチン、レプチン、DHEASの測定を行いベースラインデータとして蓄積した。共同研究ベースで赤血球膜酸化度の評価系を確立し、酸化ストレスと動脈硬化との関連について検討を進めている。対象者の採血と尿は分注後に冷凍保存している。 疾患発症追跡調査平成20年度は、18・19年度利用者を対象に疾患発症ならびに死亡に関する追跡調査を行った。脳卒中、心筋梗塞、骨折、転倒に関するアンケートを年度末に郵送することで1次スクリーニングを行った。アンケート未回収例等にっいては、アンケートの再発送(2回)や電話調査等から現況を把握した。対象疾患の発症が疑われたケースについては、医療機関における採録の準備を進めている。 臨床データの断面解析縦断的な検討には症例の蓄積が不十分であったため、平成20年度は主に横断面で動脈硬化性疾患(無症候性脳梗塞や脳出血・頸動脈肥厚・脳萎縮等)と各種リスク因子(血液マーカー・血圧調節障害等)との相関を検討した(研究発表参照)。
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