本研究は、悪い知らせを伝える際の医師の共感能力を認知的側面・生理的側面・行動的側面から多面的に評価することによってその機序を明らかにし、共感能力の向上に最適な介入法を開発することを目的とする。 前年度から引き続いて、患者の情動が変化したときの医師の共感行動と皮膚電気抵抗などの精神生理反応との関連について検討している。対象はがん医療に携わる医師20名であり、模擬患者に対して難治がんの病名告知を行う医療面接を実験課題とする。模擬患者は面接時にあらかじめ決められた怒りや悲しみなどの情動を表出する。調査項目は、1)課題中の皮膚電気抵抗(SCR)、2)課題中の共感行動、3)医師の特性的共感(IRI日本語版・JSPE日本語版)、4)医師の社会的背景である。解析に先立ち、面談を撮影したビデオを用いて、第三者2人が独立してRIAS日本語版に基づき医師の面談時の行動を評定する。第三者による行動評定と刺激課題時の生理反応、および感情評定、IRIの関連を検討する。参加者は、男性16名、女性4名の計20名の医師で、年齢は中央値で31歳であった。臨床経験年数は中央値で6年であり、専門は内科16名、外科4名であった。刺激課題提示時の皮膚電気抵抗はベースラインと比して有意に高かった。しかし行動評定と皮膚電気抵抗に関連は認められなかった。一方で、行動評定とIRI得点には中程度の正の相関関係が認められた。 次のステップとして機能的磁気共鳴法(fMRI)を用いて客観的に医師の認知的共感を評価するシステムを構築することを予定している。2010年度は「悲しみ」「怒り」の感情の表情映像(各映像2.5秒)を準備し、健常者を対象として課題の標準化を進め、医師を対象としたfMRI実験の課題を作成している。
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