研究概要 |
肝臓内に発生する悪性新生物のうち、約5%~20%は肝内胆管細胞由来の胆管細胞癌(intrahepatic cholangio carcinoma : ICC)である。その発生原因の多くは不明である。また、ICCの予後は不良であるため、予防手段となり得る環境原因物質の特定が望まれている。最近B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染と、ICCの発症との関連を調べた疫学研究が、韓国、中国、米国、イタリア、日本から報告されたが、そのほとんどは症例対照研究であり、しかも関連性の結果が一貫していなかった。そこで我々は、日本人の大規模コホート集団のデータを用いてその関連性を検討した。 対象は1991年-93年に大阪府内で献血をした40-64歳の154,814人である。初回献血時スクリーニングデータにより、HBV感染者2,519人、HCV感染者1,927人、いずれのウイルスにも感染していない者150,368人の3群に分類し、大阪府がん登録資料との記録照合により1人平均7.6年追跡し、ICCの発症を把握した(後ろ向きコホート研究)。 対象者の中でICCを発症した者は11人おり、罹患率は10万人あたり0.88(95%信頼区間(CI):0.44-1.58)であった。性、年齢、献血時トランスアミナーゼ値およびコレステロール値、肝炎ウイルスマーカーをCox proportional hazard modelで調整したところ、HBV持続感染者(HBs抗原陽性者)のICC発症相対危険度は、8.56(95%CI : 1.33-55.20)と有意に高く、一方、HCV持続感染者(第2世代HCV抗体高力価)のそれは、2.63(95%CI : 0.25-27.73)と、有意な関連を認めなかった。 本研究成果はHBVの持続感染がICCの発症と関連していることを示すものであり、現在行われているB型肝炎母子感染予防事業などによるHBVのキャリア化の防止が、B型肝細胞癌の予防のみならず、ICCの予防にも役立つことを示唆するものであると考えられた。
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