前年度は、高い多型性を示す縦列反復配列のひとつであるD1S8(MS32)について、日本人だけでなく、タイ人、中国人のアリルで分析し、その類似性やエスニック集団としての特異性や近縁性を検討した。その結果、各集団の一部のアリル内に集団特異的といえるリピート配列が認められた。さらに、タイ人や中国人のアリルは、欧米白人よりも日本人において強い類似性を示した。このため、第3度近親を扱う前段階として、同胞の血縁関係の検査における縦列反復配列の有用性について検討をおこなった。まず、ともに複数の同胞を有する2つのグループが二者における第3度血縁関係を判定するため、高多型ミニサテライトを用いて検討を行う方法を、実際例にて試験的に判定してみたが、2つのローカスにおいては、双方のグループ間ではアリルの共有はなく、判定不能であった。次に、現在鑑識捜査などで、世界中で用いられているマイクロサテライトの15ローカス検出キットの有用性について、2万例の同胞ペアをシミュレーションで作成して検討したが、約16%の例で同胞と肯定できない尤度比を示したが、参照する同胞の数を増やしたところ、尤度比は向上しほぼ間違いなく決定できた。しかし、従兄弟である第3度血縁関係の場合は、シミュレーションでは、このシステムでは殆ど判定できないことが予想された。実際に第3度血縁関係にあるボランティアより血液を提供してもらい、マイクロサテライトの型判定を行って、第3度血縁関係の有無について尤度比を算出したが、その値は1を下まわる結果となった。このため、ヒトゲノムの研究者にも師事を仰ぎながら、散在するマイクロサテライト判定でなく、ゲノム内の調査領域を増加した血縁鑑定方法を検討しており、現在興味深いデータが出始めている。
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