研究概要 |
本研究は,釣藤散を中心に漢方薬の抗認知症効果に関わる脳内メディエータを単離同定し,その機能を解明することにより老年期認知症の臨床治療に「即応用」可能な新規の方法論を創出することを目的とする。釣藤散処置により認知障害が改善された学習記憶障害モデル動物である老化促進マウス(SAMP8)を用い,学習記憶に重要な脳内神経可塑性に関与する因子,即ちNMDA受容体(NMDAR),カルモジュリン依存性蛋白リン酸化酵素(CaMKII)等のリン酸化,および血管内皮細胞増殖因子VEGFとその受容体蛋白発現に及ぼす釣藤散の影響を検討した。対照動物SAMR1群と比べ,SAMP8群では有意な認知障害とNMDAR,CaMKII,サイクリックAMP応答配列結合タンパク質(CREB)のリン酸化及び脳由来神経栄養因子(BDNF)レベルの低下が認められた。また一過性脳虚血処置したSAMP8 (SAMP8-T)群では軽度ではあるものの,学習障害の有意な増悪が観察された。一方,釣藤散投与(750mg/kg/day、経口)は,SAMP8群およびSAMP8-T群の認知障害および脳内NMDAR,CaMKII,及びCREBのリン酸化体レベルおよびBDNFレベルを何れも有意に回復させることが明らかになった。更にSAMP8及びSAMP8-T群では血管新生や神経再生に関与する血管内皮細胞増殖因子VEGFとその受容体VEGFR2の発現量が有意に低下していることおよび釣藤散投与によって有意に回復することも明らかなった。更に心血管系障害改善作用を有する漢薬の冠元顆粒(100mg/kg/day,経口)投与によっても釣藤散と類似した抗認知症効果とVEGF系に対する改善作用が認められた。以上の成績から,漢方薬の抗認知症効果発現における薬効メディエータとしてVEGF系が重要な役割を担う可能性が示唆された。
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