研究課題
本年度はEMTに関与するmiRNAの候補をさらに絞り込むべくIPMA6例、IPMC6例、浸潤性膵癌5例の手術検体からのmicrodissection検体およびヒト膵癌細胞株5種より抽出した検体を用いてmiRNAアレイを施行し、クラスター解析を行って有意な発現変動を認めるmiRNAを抽出した。1)IPMAとIPMC検体の間ではmiRNA発現プロファイルの有意な変化は極めて少なく、IPMA/IPMCと浸潤性膵癌/膵癌細胞株とのmiRNA発現プロファイルが大きく異なることが判明した。浸潤性膵癌および膵癌細胞株にて有意に発現が上昇するmiRNAとしては既報にて浸潤性膵癌での発現増加が報告されているmiR-21が抽出され、本検討で用いた手法の妥当性が確認された。対照的に、浸潤性膵癌および膵癌細胞株において有意に発現低下が認められるmiRNAとしてはmiR-126が同定された。2)膵癌細胞株であるPanc-1およびASPC-1においてmiR-126前駆体をトランスフェクションすることにより上皮系マーカーであるE-cadherinの発現増加が確認され、細胞遊走能・matrigelへの浸潤能が低下することが確認された。この結果は浸潤性膵癌において発現が低下しているmiR-126が細胞遊走能・浸潤能を制御していることを示すものと考えられた。3)データベース解析によりmiR-126の標的遺伝子には腫瘍増殖に関与することが報告されているCRK(v-crk sarcoma virus CT10 oncogene homolog)などが確認された。これらの標的遺伝子のうち、癌細胞の浸潤能との関連が報告されているADAM9はmiR-126の強制発現により実際にその発現レベルが低下することがPanc-1およびASPC-1において確認され、miR-126がADAM9の発現制御を介して膵癌細胞の浸潤性を規定することが判明した。以上の結果は膵癌の浸潤性増殖を抑制するmiRNAとしてmiR-126を新規に同定したものであり、今後の治療応用が期待される。
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