研究概要 |
ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori:HP)感染における宿所免疫応答とその結果生じる慢性胃炎形成機構の解明のために,小腸パイエル板を含む腸管上皮,胃粘膜上皮でのTSLPを介した免疫誘導機構の解析を行った。 HPとの直接的な接触によって,胃上皮細胞においてTSLPの発現誘導が生じた.そのTSLPの発現誘導は,樹状細胞を粘膜局所に誘導するケモカインmacrophage inflammatory protein-3αの分泌誘導も伴い、TSLPの発現が誘導された上皮細胞の培養上清を用いて,樹状細胞にT細胞活性化誘導に重要な共刺激分子CD80の発現増強が誘導された.さらに,この樹状細胞との共培養にて同種naiveCD4T細胞の炎症性Th2サイトカイン産生細胞への分化が誘導された.腸管上皮細胞においては,さらに,TNF-α刺激にてTSLP発現が誘導され,Th2サイトカインであるinterleukin (IL)-4をTNF-αに添加することにより,そのTSLP発現誘導が増強されることが明らかとなった.TNF-α刺激によるTSLP発現誘導の増強はTh1サイトカインであるinterferon(IFN)-γでは生じず,IL-8等の他の炎症性サイトカインとは異なる制御機構が働いていることが示唆された.また,TNF-α+IL-4刺激による上皮からのTSLP発現誘導は,感染に対する自然免疫での役割が示唆されているTLR3リガンド刺激にて,さらに増強された.TLR3はDCにも発現しており,TLR3リガンドとTSLPにて共刺激にて活性化した樹状細胞からはIL-23の産生が誘導され,この樹状細胞との共培養にて同種naive CD4T細胞は炎症性Th2細胞のみならずTh17細胞へも分化誘導された.また,TSLPの新たな機能として,TSLPに対する機能的な受容体が樹状細胞のみならず,T細胞受容体刺激にて活性化したCD4T細胞,CD8T細胞にも発現誘導され,TSLPが直接的にT細胞の増殖誘導にも関与しうることも見いだした.
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