研究概要 |
ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori : HP)感染における宿所免疫応答と胃炎形成機構の解明のために,HPによるTSLP発現誘導に着目し解析を行った。免疫組織染色にて、濾胞性胃炎粘膜上皮にTSLPが発現し、活性化樹状細胞(DC)が周囲に局在していることが明らかとなり、TSLPによる粘膜局所でのDC活性化が示唆された。一方、胃上皮細胞株MKN28,MKN45,MKN74にて、HP感染にてTSLP発現が誘導され、HP菌体150-200個が1細胞株に接着できる条件下で最も強く見られること、HP感染後12時間で誘導され、36時間後もその発現が持続していることを見いだした。HPと胃粘膜上皮細胞の直接的な接触がない条件では上皮でTSLPの発現が誘導されず、またサイトトキシン関連遺伝子産物CagAを欠損したHPと野生型HPを比較すると、CagAの欠損で発現誘導が抑制された。これらのことから、HPの胃粘膜上皮細胞への直接接着による上皮細胞内へのCagA分子の挿入により、上皮でのTSLPの発現誘導が生じることが示唆された。また、HP感染胃粘膜上皮細胞から、DCを粘膜局所に誘導するケモカインMIP-3αとともに、B細胞活性化因子BAFFが発現誘導されることを見いだした。さらに、ヒト末梢血からTSLP受容体を高発現した骨髄系未熟DCを精製し、TSLPを含むHP感染粘膜上皮細胞株の上澄を用いて培養すると活性化DCに分化誘導されること、精製した同種naive CD4T細胞を、TSLPを含む上記上澄にて活性化したDCと共培養すると、増殖CD4T細胞は、IFN-γ産生細胞とともに、IL-4やIL-13を産生する細胞にも分化誘導されることがフローサイトメトリー解析から明らかとなった。
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