肝細胞癌はMHC class I-related chain A(MICA)を高発現しており、NK細胞に発現するNKG2D活性化レセプターのリガンドになっている。しかし、不明の機序により細胞膜上でMICAは切断され、血中に可溶型MICAとして放出される。このMICA sheddingは肝癌の免疫逃避機構の一翼を担っているが、この分子機序については十分理解されていない。肝癌細胞株の培養上清中には36kDaのMICAが検出され、細胞内の43kDaからプロセシングを受けた可溶型が存在した。肝癌細胞株に発現するa disintegrin and metalloproteinase(ADAM)ファミリーをsiRNAを用いてノックダウンしたところ、ADAM10のノックダウンにより培養上清中の可溶型MICAの濃度が低下し、細胞膜上のMICA発現が増強した。MICA mRNAの発現変化はみられなかった。肝癌細胞株をepirubicin処理するとADAM10の発現がmRNAおよび蛋白レベルで低下し、MICA sheddipgの阻害がみられた。肝癌細胞株にADAM10 siRNAを導入すると、ADAM10欠損細胞株ではepirubicinによるMICA sheddingの低下が消失した。肝癌細胞株の重要なMICA sheddaseの候補としてADAM10を同定した。肝癌に対するTACE治療で汎用される抗癌剤であるepirubicinはADAM10の発現を転写レベルで阻害することによりMICA sheedingを阻害することが示された。ADAM10は肝癌の免疫病態を改善する新たな治療標的になる可能性が示された。
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