肝細胞癌はNK細胞のNKG2D活性化レセプターに対するリガンドであるMHC class I-related chainA(MICA)を発現している。MICAは不明の機序により肝癌から血液中に可溶型分子として分泌され、NKG2Dのダウンレギュレーションを引き起こす。このようにMICAの細胞膜上での切断は肝癌の免疫監視機構からの逃避に繋がる分子イベントである。昨年度、このMICAの分泌にadisintegrin and metalloproteinase(ADAM)ファミリーのADAM9が関与していることを明らかにした。本年度は炎症性サイトカインであるIL-1-betaの刺激により肝癌のMICA発現がどのように変化するかを検討した。肝癌細胞株にIL-l-betaを添加するとMICAの遺伝子発現は影響を受けなかったが、膜結合型のMICAが減少し、可溶型MICAの分泌が増加した。IL-1-betaは活性型ADAM9の発現を増強させた。C型慢性肝疾患においては血清中の可溶型MICA濃度とIL-1-beta濃度に相関がみられた。血清IL-1-beta高値のC型肝炎患者からは肝発癌が高率にみられる傾向があった。C型肝炎からの肝発癌については炎症発癌としての側面があるが、本年度の研究により炎症性サイトカインがMICAのsheddingを増強し、癌に対する生体の免疫応答を減弱させるという新規のメカニズムがあることが示唆された。
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