研究概要 |
スキルス胃癌は間質増生を特徴とする悪性腫瘍の中でも予後不良の疾患である。最近、がんの間質の基盤である線維芽細胞はがん随伴細胞(CAF)と呼ばれ、癌細胞より分泌された種々の増殖因子により線維芽細胞より変態した筋線維芽細胞であることがわかっている。このCAFは肝星細胞に性質が類似したもので、αSMA、ビメンチンを発現し種々のサイトカインを分泌し癌細胞の増殖を支持していると考えられている。即ち、スキルス胃がんの特徴であるCAFを標的とすれば癌治療に応用可能であると考えられる。申請者らは、CAFが肝星細胞と類似していることに着目し、Vitamin Aを取り込む性質があると推測し(Sato Y, Takimoto R, Nat Biotech 2008)、平成20年度はスキルス胃がん患者から得たCAFを用いて、VA-リポゾームによる導入実験を行い、有意な送達率の向上を認めた。更にスキルス胃癌細胞株とCAFの共培養系を確立し、抗がん剤を搭載したVA-リポゾームによる細胞障害性を検討した。これらのin vitroの結果では、VA-リポゾームはCAF特異的に抗がん剤を送達し、CAFの障害により間接的にスキルス胃癌細胞の増殖も抑制しうることを確認した。平成21年度はVA-リポゾームを作製し、これに標識化合物(siRNA, plasmid DNAなど)を封入しin vivoで担癌マウスに尾静脈から投与し、in vivo imageanalyzer(IVIS)で解析した。その結果、CAFに特異的に薬物を送達しうること、さらにCAFを通して癌細胞へも特異的に標識化合物を送達しうることを証明した。現在、これらの結果を踏まえて、臨床応用を目指して抗がん剤を搭載したVA-リポゾームを開発し、抗腫瘍効果の増強による新しい細胞治療の準備中である。
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