本研究の目的は、メカニカルストレスによって誘導されるアンジオテンシンII(AngII)1型(AT_1)受容体の構造変化や細胞内シグナルの時間的、空間的なダイナミクスを明らかにし、AT_1受容体ブロッカーの化学構造とインバースアゴニスト活性との因果関係を解明するとともに、臓器保護作用におけるインバースアゴニスト活性の重要性を明らかにすることにある。AT_1受容体はアゴニストであるAngIIとの結合やメカニカルストレスにより活性化するが、培養細胞系ではAngIIが存在しない状態においても自律的活性を示す。心臓におけるAngII非依存的なAT_1受容体活性化の病因的役割について明らかにするために、アンジオテンシノーゲンノックアウト(AtgKO)マウスにおいて、心筋特異的に野生型AT_1受容体を過剰発現させたAT_1Tg-AtgKOマウスを作成した。このAT_1Tg-AtgKOマウスは、AngIIが全身性に欠失しているにもかかわらず、AtgKOマウスと比べて有意な心機能低下と心室拡大、間質の線維化を認めた。また、AT_1受容体に対するインバースアゴニストであるカンデサルタンはAT_1Tg-AtgKOマウスにおける心臓リモデリングの進展を抑制したのに対して、イミダゾールリングに存在するカルボキシル基を欠失するカンデサルタン誘導体はインバースアゴニスト活性を示さず、AT_1Tg-AtgKOマウスにおける心臓リモデリングの進展を抑制しなかった。これらの結果から、心臓におけるAT_1受容体の発現が亢進した状態では、AT_1受容体の自律的活性がAngII非依存的に心臓リモデリングを促進させることが明らかとなり、AT_1受容体ブロッカーのインバースアゴニスト活性はこのような自律的活性の亢進によって生じる臓器障害に対して有効性を発揮することが示唆された。
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