研究課題
わが国での心臓移植待機中の心不全患者の病態的特徴は、機能的心筋細胞がほとんど残存しない虚血性心筋症で90%以上の割合を占めており、実質的な作業心筋細胞を新たに補充する形での心筋細胞再生を絶対的に必要とする難治性の疾患である。本研究では、心臓内幹細胞の特異的増幅因子の同定による次世代再生医療法の確立を目指す。1) 心臓内幹細胞の多くは表面抗原であるSca-1で認識されることから、我々は既に報告した心臓内幹細胞の増幅因子であるAkt依存性に増殖調節する遺伝子群をSca-1プロモーター制御下で網羅的にスクリーニングした。合計95個の遺伝子群が初期分離で同定され、うち、46遺伝子群がAkt依存性に発現低下、49遺伝子群が有意に発現上昇した。49遺伝子群の中で、我々のスクリーニング条件に一致した遺伝子群を12個同定し、二次的検索により、最終的に4つの候補遺伝子に集約した。Osteopontin、SPARC、インターロイキン1受容体様因子(ST2)と低酸素誘導因子(HIF-alpha)に焦点を当てて、以下の解析を行った。2) 上記の4遺伝子群はともに、成熟心筋細胞や線維芽細胞に比べ、心臓内幹細胞において、その発現は多く、それぞれのリコンビナント蛋白及びレトロウイルスによる遺伝子の過剰発現系実験においても、通常の幹細胞培養条件よりも5から10倍有意に幹細胞の特異的増幅作用があることが明らかとなった。また、si-RNAを用いた遺伝子欠損実験での検討では、これらの遺伝子群の発現欠損により、心臓内幹細胞の自己複製障害から、虚血ストレス障害における心機能の回復が有意に低下した。今後、これらの知見を踏まえ、心臓内幹細胞の自己増幅促進および活性化による新たな自己修復因子群による心臓の再生医療に向けて、動物実験を中心にさらなる検討を進めている。
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