(1) GSの機能解析 心臓の非分裂性の分子メカニズムの解明のため、癌遺伝子であるc-mycによる転写誘導を心臓及び他の組織の細胞で比較検討した。それによりGSとよばれる膜蛋白が心臓において特異的に発現抑制されることが明らかになった。本蛋白は機能不明であったが、昨年までの本研究によりミトコンドリアのATP産生をつかさどるF-ATP synthaseに高親和性結合すること、GSがそのATPase活性には直接影響を与えないことなどを明らかにした。本年度は、ATP感受性FRETを使用した実験により細胞内ではGSがF-ATP synthaseの活性を上昇させること、低酸素により強く発現誘導されることなどを明らかにした。つまり、GSはF-ATP synthaseの働きを動的に制御することができる初めての物質であることが明らかになった。GSは心臓におけるエネルギー代謝と非分裂性のメカニズムを結び付ける重要な因子であることが本研究により明らかになった。 (2) 心臓の非分裂性に係る新たな分子の同定と解析 さらに、昨年に引き続きキナーゼを中心として、細胞極性やエネルギー代謝に関係する酵素の標的をスクリーニングし心臓特異的な高次構造の形成に係るキナーゼ・基質関係の解析をおこなった。その中でAMPKの新しい器質としてCHP-170を同定しその微小管動態における役割を明らかにした。微小管は細胞分裂にもかかわっておりエネルギー代謝と心臓の非分裂性を結び付ける重要な発見となった。
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