本研究の目的は、肺サーファクタント蛋白質(SP-A、SP-C、SP-D)による呼吸器感染症、炎症、障害防御機能の分子機構を解明し、これらの特異蛋白質を利用した病態肺の診断治療への応用のための分子基盤を確立することである。以下に、今年度の研究成果を要約する。 1.非常に疎水性の強いSP-Cに対する抗体を得ることはきわめて困難であったが、SP-Cの合成ペプチドを作成し、KLH-conjugation後ニワトリに免疫することにより、抗SP-CIgY抗体を得ることに成功した。 本邦においては初めての抗体であり、肺胞II型細胞特異的なSP-Cの局在、SP-C遺伝子異常に伴う間質性肺疾患の診断に応用可能であることが示唆される。 2.肺胞マクロファージをSP-D存在下で培養すると、マクロファージのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)9活性が著明に現弱し、MMP9蛋白の発現量が低下していた。このことは、SP-DがMMP9活性を制御していることを示すとともに、SP-DによるMMP9活性制御がSP-D KOマウスでみられる肺気腫様病態に関わっている可能性を示唆している。 3.SP-AとSP-Dの肺コレクチンは、レジオネラ菌にカルシウム依存性に結合し、レジオネラ菌の増殖を抑制した。また、肺コレクチン存在下でレジオネラ菌をマクロファージに感染させると、IV型分泌機構によるマクロファージ傷害活性が抑制され、貪食されたレジオネラ菌の細胞内増殖が抑制された。このことは、肺コレクチンがマクロファージをレジオネラ感染から防御し、菌の細胞内増殖を抑制することを示している。
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