本研究の目的は、肺サーファクタント蛋白質(SP-A、SP-B、SP-D)による呼吸器感染症・炎症に対する防御機構の分子機序を解明し、これらの特異蛋白質を利用した病態肺の診断治療への応用のための分子基盤を確立することである。以下に、平成21年度の研究成果を要約する。 1. 肺コレクチンのSP-AとSP-Dは、レジオネラ菌に結合し、培養液中での細菌増殖を抑制するとともに、マクロファージに感染、貧食された後の細胞内増殖が肺コレクチン存在下での感染で有意に抑制された。マクロファージ内に取り込まれたレジオネラ菌とリソソームのマーカーであるLAMP-1を免疫染色後、共焦点顕微鏡で観察したところ、肺コレクチン存在下での感染では両者の多くが共局在していた。また、酸性化画分に有意に多くの菌が存在した。このことは、肺コレクチンが細胞内でレジオネラ菌のリソソームへの移動を促進していると考えられた。 2. SP-Aは非定型抗酸菌に結合し、培養液中での菌の増殖を有意に抑制した。 3. 肺胞マクロファージをSP-D存在下で培養するとMMP活性が有意に低下するが、real time PCRによるMMP9 mRNA発現に有意差はなかった。MMP9の蛋白質発現は低下していたので、MMP9生合成後の蛋白の分泌過程にSP-Dが影響を与えている可能性が示唆された。 4. 特異的抗SP-C IgY抗体を用いたBALFのウェスタンブロットにより、BALF中の成熟SP-C蛋白を検出することが可能となり、SP-C遺伝子異常によるSP-C欠損の診断に利用できることとなった。
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