研究概要 |
本研究は、気道粘膜抗ウイルス遺伝子群の多型解析・機能解析に加えて、インフルエンザウイルスのレセプターとなる糖鎖を合成するシアル酸転移酵素の遺伝子解析を行い、我々が保有する多数のヒト正常気道上皮細胞での発現を解析し、ヒトおよび鳥インフルエンザウイルス感染症に関連する宿主側の因子、特に易感染性・感染抵抗性や病態などに関わる因子、その機序を明らかにすることを目的にしている。昨年度の研究で、ヒトインフルエンザウイルスレセプターのSAα2, 6Gal、鳥インフルエンザウイルスレセプターのSAα2, 3Galとなる糖鎖の末端にシアル酸を付加するシアル酸転移酵素遺伝子のうち、alpha-2, 3-sialyltransferaseのヒト気道上皮細胞での発現を誘導する刺激があることを明らかにした。今年度は、ヒト正常気道上皮細胞パネルのうち30検体を用い、その刺激で遺伝子発現誘導をかけた。非刺激時と比較して、7.5倍の発現が認められた細胞から2倍程度の細胞まで、シアル酸転移酵素遺伝子の誘導には個体差があった。3検体については、気相液相培養により気道上皮細胞の再分化を行ったが、alpha-2, 3-sialyltransferaseは気相液相培養での発現誘導は認められず、再分化後に同じ刺激を加えた場合にやはり2倍~4.5倍の発現誘導がみられた。5'RACE法およびRT/PCRにて、刺激時の転写開始点を確認し、ヒト気道上皮細胞のゲノムDNAを用い、その上流約1kbの遺伝的多型の検索を行ったところ、2つの単塩基多型が見いだされた。また、この刺激のレセプター分子遺伝子の遺伝的多型のタイピングも行った。ヒト気道上皮細胞30検体での遺伝子発現誘導に関連していたのは、レセプター分子の多型であり、この遺伝的多型がヒト気道上皮細胞での鳥インフルエンザウイルスレセプター発現に関係する可能性が示唆された。
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