本研究の目的は、オートファジー関連筋疾患の病態解明と治療法開発のため、ダノン病のモデルマウスであるLAMP-2遺伝子欠損(KO)マウスを用いて、骨格筋・心筋の表現型を生理学的または病理学的に特徴付けること、ホモログ分子であるLAMP-1を外来性に発現させることでの表現型の回復を解析することである。昨年度は、LAMP-2KOマウスにおける骨格筋と心筋の症状を報告した。今年度は、LAMP-2KOマウスにLAMP-1を過剰に発現するマウス(LAMP-1 Tg)を掛け合わせることで、LAMP-2欠損において観察された表現型を外来性のLAMP-1の発現によって改善しうるかを解析すると共に、LAMP-2 KO、LAMP-2KO/LAMP-1Tgマウスから初代培養細胞を単離し、リソソームの機能解析を行った。初代培養細胞を用いた解析では、LAMP-2 KO細胞でマクロオートファジーの誘導に伴い酸性小胞が著明に蓄積していくこと、誘導停止後の酸性小胞のクリアランスが低下していること、また、長寿命蛋白質の分解(活性)が低下していることが観察されたが、LAMP-2KO/LAMP-1Tgマウス細胞では、これらはすべて改善された。この結果は、LAMP-1を外来性に発現させる治療法が有効である可能性を示すとともに、いまだその機能が十分に解明されていないLAMP-1のマクロオートファジーへの関与を示唆するものと考えられた。さらに、マウスを用いた解析では、50週齢以降のLAMP-2KOマウスでみられた骨格筋収縮力の低下及び、心筋線維の肥大化と大規模なfibrosisが、LAMP-2KO/LAMP-1Tgマウスでは改善されていることを明らかにした。しかしながら、マウスの運動能力と骨格筋線維の萎縮、及び病理変化に改善は認められなかった。ダノン病は心臓の機能障害により死に至るため、心筋に改善が見られたことは、治療法開発に向けてこの方法の有効性を示唆している。今後は、何故、心筋と骨格筋における表現型の改善度に違いがあるのかを明らかにすることで、組織特異的なLAMP-1の機能を明らかにすると共に、LAMP-2KOマウス骨格筋機能の改善方法の探索、および他のオートファジー関連筋疾患の治療への応用を考えている。
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