研究概要 |
厚生省が調査によればメタポリック症候群(内臓脂肪症候群)は、成人男性の23%、成人女性の8.9%を占め、約1300万人が有病者であり、その予備群も含めると2700万人に及ぶことが明らかとなった。従ってメタボリック症候群の克服は、国民の健康において最も重要な課題である。近年の脂肪細胞の分子生物学の進歩により、内臓脂肪組織は単に受動的な脂肪の蓄積臓器ではなく様々な生理活性を有する分泌蛋白を産生する臓器として注目されており、これらの分泌蛋白はアディポカインと呼ばれている。アディポカインは内臓脂肪組織の蓄積や脂肪細胞の大型化、インスリン抵抗性、さらには動脈硬化などの慢性血管合併症の進展に深く関係していると推察される。我々はメタボリック症候群の病態に深く関与するアディポカインを同定するために、内臓脂肪蓄積を来し2型糖尿病・高血圧・高脂血症を発症するOtsuka Long-Evans Tokushima Fatty(OLETF)ラットを用いて内臓脂肪特異的な遺伝子群のスクリーニングを行った(Hida K and Wada J, J Lipid Res 41, 1615-1622, 2000)。その結果我々が発見したvaspin (visceral adipose tissue-derived serine protease inhibitor)はラット・マウス・ヒトで保存され、antitrypsinと40.5%のホモロジーを有し、その構造からserpin (serine protease inhibitor)遺伝子ファミリーに属する新規アディポカインであることが判明した(Hida K and Wada J, PNAS 102, 10610-10615, 2005)。AP2プロモータを用いてvaspinトランスジェニックマウス6ラインを作製し、そのうちの1ラインを用いて高脂肪・高蔗糖食肥満マウスを準備して検討したところ、体重増加の抑制とインスリン感受性の向上を認めた。肥満vaspin Tgマウスにおいては、野生型(WT)と比較して血中レプチンレベルの低下、肝臓内脂肪滴と中性脂肪含量の低下、肝では糖新生に関与するGlucose-6-phsphatase, PEPCKや、脂質合成に関与するSREBP1c, FAS (fatty acid synthase), ACC (acetyl-CoA carboxylase), SCD-1 (stearoyl-CoA desaturase-1)のmRNA発現の低下を認めた。さらにvaspinノックアウトマウスの作出に成功した。現在高脂肪・高蔗糖食肥満を誘導しそ糖代謝や脂質代謝を検討している。
|