肥満の脂肪組織では脂肪細胞の肥大とともに血管新生やマクロファージ浸潤、炎症性変化がもたらされ、「脂肪組織リモデリング」とも言うべきダイナミックな変化をきたしている。脂肪組織リモデリングの主要病態の一つである脂肪組織へのマクロファージ浸潤にはMCP-1/CCR2系が重要であると考えられているが、単球遊走の分子機構には不明な点が多い。本研究では、細胞遊走を遊走速度と方向性に分けて解析することが可能なリアルタイム細胞動体測定装置TAXIScanを用いて、脂肪組織由来液性因子に対する細胞遊走能を検討した。 マウス骨髄単核球細胞は、脂肪組織の培養上清に対して著明な走化性を示したが、CCR2拮抗剤であるプロパゲルマニウムの添加により抑制された。CCR2を強制発現させたヒトTリンパ球系Jurkat細胞も同様に、脂肪組織培養上清に対して強い走化性を示したが、プロパゲルマニウムの添加により抑制された。このとき、プロパゲルマニウムは、細胞遊走速度には影響を及ぼさず、方向性のみを阻害した。高脂肪食を負荷したKKA^yマウス、あるいはob/obマウスにプロパゲルマニウムを経口投与したところ、いずれのマウスにおいても非投与群と比較して、脂肪組織へのマクロファージ浸潤が有意に抑制された。骨髄移植法により作製した骨髄細胞特異的CCR2欠損ob/obマウスは、対照ob/obマウスと比較して、脂肪組織へのマクロファージ浸潤が有意に抑制された。 本研究により、骨髄細胞のCCR2が、脂肪組織由来液性因子に対する細胞遊走の方向決定において重要であることが明らかになり、肥満の脂肪組織へのマクロファージ浸潤において骨髄細胞のCCR2を介した細胞遊走の質的変化が関与する可能性が示唆された。細胞遊走の質的な評価により、肥満の病態形成における走化性因子の新たな役割が明らかになる可能性が期待された。
|