1)ヘパリン結合上皮成長因子様増殖因子(HB-EGF)は膜蛋白質として生合成され、切断酵素により切断されて細胞より放出される。本研究では、肥満マウスでは脂肪組織においてのみHB-EGF mRNA発現が増加することを確認した。次に、アルカリフォスファターゼ融合HB-EGFを安定発現する3T3-L1脂肪細胞を作出し、HB-EGF放出の検出系を確立した。インスリンあるいはリコンビナントHB-EGFは分化脂肪細胞においてHB-EGF放出を誘導した。メタロプロテアーゼ阻害剤を用いた検討により、インスリン誘導性HB-EGF放出の少なくとも一部はADAM17によることが示唆された。切断酵素によるHB-EGF放出の分子機構の解明は、内分泌細胞としての脂肪細胞の生物学に新しい洞察をもたらすと考えられる(Obesity 2010 Jan 28.[Epub ahead of print])。 2)肥満の脂肪組織におけるMAPK phosphatase-1(MKP-1)の機能的意義を明らかにするために、脂肪細胞においてMKP-1を過剰発現するトランスジェニックマウス(MKP-1Tg)を作製した。このマウスの脂肪組織では野生型マウス(WT)と比較してMKP-1タンパク質発現が増加しており、MAPキナーゼの活性低下が認められた。標準食飼育下では、MKP-1TgとWTの体重と随時血糖に有意差は認められなかった。高脂肪食負荷では、MKP-1TgとWTには経時的な体重増加、随時あるいは空腹時血糖には有意差はなかったが、血中インスリン濃度はMKP-1Tgにおいて低値を示した。インスリン負荷試験において、MKP-1TgではMKP-1の発現量依存的に高脂肪食負荷によるインスリン抵抗性の改善が認められた。以上より、MKP-1Tgでは肥満により誘導される脂肪組織の炎症性変化とインスリン抵抗性の改善が認められた。
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