私たちは、成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)において脂肪肝/非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が高頻度に合併し、成長ホルモン(GH)補充療法によって著明に改善する可能性について報告してきた。一方、生活習慣病の増加に伴いNASH発症頻度も上昇の一途をたどり、予後不良のNASH治療対策は緊急かつ重要な社会問題である。本研究においてはAGHDをモデルとしてNASH発症機序および病態を臨床研究および動物モデルを用いた分子生物学的手法によって明らかにするとともに、GH補充による一般的なNASHの治療応用を視野に入れたトランスレーショナルリサーチを目指し基礎、臨床研究を進めてきた。私たちはこれまで、GH欠損ラット(SDR)が15週以降になると内臓肥満、NASHを呈し、ヒトにおけるAGHDの良いモデルになることを見いだし解析を進めてきた。また平行してin vitroの細胞を用いて作用点を明らかにするとともに機序について解析を行ってきた。平成20年度の解析において、SDRではNASHが起こり、GH/IGF-Iが著効すること、特に多くの作用がIGF-Iを介していること、そのIGF-Iの作用が炎症、線維化を抑制することを明らかにしてきた。さらに一般的なNASHへの臨床応用を目指したdb/dbマウスにコリンメチオニン欠乏食を与えた重篤なNASHモデルに対するGHあるいはIGF-I投与の効果を解析したところ、IGF-Iが炎症、線維化を抑制することを見いだした。現在その作用機序について上記の動物モデル、培養細胞系で解析を進めている。さらに臨床研究としてAGHDでは77%にNAFLD/NASHを認め、NASHも高頻度に存在することを明らかにした。今後、その発症機序と予防のための手段についても明らかにしていく。
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