本年度はヒト造血幹細胞(HSC)の老化モデルを作成するために、ヒトHSCを免疫不全マウスに移植し、ヒト造血系を再構築させた後、再度別個体に移植を繰り返すと、ヒトHSCの幹細胞活性が著しく低下し、多くのHSCが幹細胞プールから枯渇してしまういわゆる早期老化状態に陥ることを明らかにした。そこで、移植前、1次移植、2次移植の各段階におけるCD34+CD38-細胞の性状解析を行なった。その結果、移植の進行にともなってCD34+CD38-細胞の活性酸素種(ROS)レベルが上昇するとともに、γH2AXを指標としたDNA損傷が、特に2次移植骨髄に生着しているCD34+CD38-細胞において顕著に蓄積していることを見いだした。このDNA損傷の蓄積はCD34+CD38+の前駆細胞集団には認められなかった。DNA損傷は、不可逆的な細胞周期の停止状態、いわゆるセネッセンスを誘導することから、細胞老化の主因として注目されている。ROSの増加とDNA損傷の関係を明確にするために、試験管内においてCD34+CD38-細胞にL-Buthionine-sulfoximine(BSO)を添加して培養することにより細胞内ROSの蓄積を誘導したところ、BSOの濃度依存的にDNA損傷が引き起こされた。DNA損傷によってヒトHSCにおけるink4aなどのCDKIの発現が亢進し、細胞増殖停止状態に陥っていた。さらに、ROSによるDNA損傷を受けたヒトHSCの骨髄再建能が低下していた。ROSによるDNA損傷は抗酸化剤であるN-Acetyl-L-Cysteine(NAC)の添加によって抑制された。重要なことに、複数回移植実験系においてNACをマウスに投与することにより、ヒトHSCにおけるDNA損傷の蓄積が回避され、非常に高い自己複製能を維持するということを明らかにした。 最終年度は、マウス骨髄ニッチにヒトN-cadherinを発現したNOGマウスで同様の実験を行い、ニッチの老化に及ぼす影響を検討する。
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