骨髄異形成症候群(MDS)は汎血球減少と3系統の骨髄系血液細胞の形態異常を主徴とする疾患で、わが国でも人口の高齢化とともに増加傾向にある。しかしながら、MDSに対する治療法は依然として輸血などの保存的療法が中心であり、有効な治療法の開発のためにはその分子病態解明が重要である。急性骨髄性白血病については免疫不全マウスへの生着が報告され生体内での病態解析が可能となっており、治療法開発の前臨床試験に利用されている。一方MDSでは生着が困難であり、安定した報告が存在しない。われわれはこれまでにヒト間葉系幹細胞(MSC)を骨髄内移植法することによりマウス骨髄をヒト骨髄微少環境に置換することに成功し、ヒト環境下でヒト正常造血幹細胞の生体内機能解析を進めてきたが、今年度は本法を用いて、従来困難であったMDS細胞をマウスの骨髄に生着させ、ヒトMDSモデル作成を試みた。これまでに14例のMDS患者の骨髄CD34陽性細胞をMSCと同時にマウスに移植し、6例についてヒト造血細胞の生着を確認した。興味深いことに、CD34陽性細胞のみを移植した群では、生着率が非常に低い、もしくは生着が確認できなかった。さらに細胞表面マーカーの解析により、マウス骨髄内でも移植前と同様の表現型を維持していることが明らかとなった。キメリズムが高い一例において、染色体解析を行ったところ移植前骨髄と同じく17番長腕の同腕染色体が認められた。また、この一例については継代移植(これまでに6代)によりMDS細胞を2年以上にわたって維持し続けている。マウス骨髄の組織学的解析により、分化した細胞を含むCD45陽性細胞は骨髄腔内に点在しているのに対し、CD34陽性細胞は骨内膜近傍に限局して存在していることが明らかとなった。特筆すべきは、マウス骨髄内で3系統の形態異常も再現されている点である。さらに、細胞外マトリックス蛋白質とMDS細胞の相互作用について解析を進めており、これらの成果をもとにMDS幹細胞の骨髄微少環境における維持機構を明らかにすることは有効な治療法を開発する上で重要である。
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