研究概要 |
蛍光蛋白CFP又はYFPが組み込まれたprotease(PR)を有する感染性組み換えHIV-1クローンを利用したfluorescence resonance energy transfer (FRET)の系を用いてPRの2量体形成を検出する系を確立。これに構造学的解析を組み合わせることで野生株のPR2量体形成を阻害する一群の新規低分子化合物(PDIs)を同定・開発すると共に、前述の組み換え1HIV-1クローンのPR領域に変異を導入し、感染性やPR2量体構造の安定性を確認することで、2量体形成に重要な役割を担っているとされるアミノ酸やPDIs耐性に関与するアミノ酸の詳細な解析を行った。その結果darunavir (DRV)が野生株PRの酵素活性中心部位のAsp29、Asp30の主鎖と強固な水素結合を形成すること、さらにAsp29がPR2量体形成に重要なアミノ酸であり、DRVがこのアミノ酸との間に二つの水素結合を形成することで、PR活性の阻害効果のみならずPR前駆体が成熟するために必須の課程である2量体化も阻止しうるbi-functional protease inhibitor (PI)であることを見いだした。(Koh & Mitsuya et al. J Biol Chem. 282 : 28709-20, 2007)。最近では、DRVとは異なる基本骨格cyclopentanyltetrahydrofuran (Cp-THF)を有し、多剤耐性臨床分離HIV-1株に対して、野生株と同等(EC50値で2倍以内)の高い活性を発揮する新規PI, GRL-02031を開発(Koh, Deb & Mitsuya et al, AAC. 2009)、さらに結晶構造解析によって異なる2つの結合様式で本剤がHIV-1 PRの活性中心部位に結合することを明らかにし、このことは本剤が様々な薬剤耐性HIVに対して高い活性を発揮する機序の一つと考えられた。試験管内あるいは臨床においてDRVに対するHIVの耐性獲得は極めて困難であることが報告されているが、我々は複数の多剤耐性臨床分離株のmixtureを用いてDRV高度耐性HIVの試験管内誘導に初めて成功し、複数の多剤耐性臨床分離株の重感染により遺伝子相同組換えが起こりHIV-1がDRV高度耐性を獲得することを明らかとした(投稿中)。
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