研究概要 |
神経芽腫(NB)は小児期に発症する最も頻度の高い固形腫瘍の一つであり、MYCNの増幅、1p36のLOHおよび17qの増幅などの多様なゲノム異常が生じていることが知られている。これらのゲノム異常とNBの臨床像とは密接に関係しており、治療の層別化にも重要と考えられているが、層別化を規定するNBの分子基盤や標的分子は十分に解明されていない。そこで本年度は、NBの臨床検体215例、細胞株24株につき高密度SNPアレイ/CNAG/AsCNARを用いて網羅的ゲノム解析を行い、発症に関与する標的遺伝子を探索した。 解析の結果、2p23上のALKの高度増幅を6検体で検出した。ALKは神経細胞に特異的に発現する膜受容型チロシンキナーゼであり、成人の悪性リンパ腫や肺癌では転座を形成することにより恒常的活性化を来たしていることが判明している。またALKはNBで高発現していることから、ALKのNBにおける分子病態への関与を検討した。まず変異解析を行ったところ、NBの新鮮腫瘍6.1%、細胞株33%にALKのミスセンス変異を検出した。変異が検出された新鮮腫瘍の92%がstage3,4であった。検出された変異の91%がkinase domainに存在しており、kinase domain内のコドン1174と1275の2ヵ所に変異が集中していた。F1174LとK1062Mを含むcDNAベクターを作成して機能解析を行ったところ、両変異を導入したNIH3T3細胞では共に自己リン酸化が検出され、野生型に比べて強い酵素活性の上昇が認められた。またcolony assayでは野生型に比べて有意なコロニー形成能が認められた。変異ALKを発現する細胞を接種したヌードマウスでは腫瘍形成が認められたが、野生型では認められなかった。以上の結果より、ALKは神経芽腫の標的分子であることが判明し、治療のターゲットになりうることが示された。
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