動脈管の開存、閉鎖の詳細な機序を理解することは、小児医療上、非常に重要である。時間的に異なる2つの過程が動脈管の閉鎖を制御している。非常に早い閉鎖過程として血管収縮があり、時間をかけておこる閉鎖過程として、遺伝子蛋白質レベルでの変化に由来する血管構造の変化がある。本研究では、動脈管の閉鎖の分子機構、特に血管構造の変化をきたす制御因子を同定し、内膜肥厚に及ぼす機序を解明することを目的とした。 1)プロスタグランジンE(PGE)刺激による血管リモデリング 弾性線維は、エラスチン蛋白が足場蛋白上に沈着して、凝集し、リジルオキシダーゼによって架橋形成が行われることで形成され、架橋結合された不可溶性エラスチンが血管の弾性線維を構成している。ラット動脈管培養平滑筋細胞を用いた研究において、動脈管血管拡張を促すPGE及びPGE受容体EP4の刺激が、不可溶性エラスチンの形成に欠かせないリジルオキシダーゼの発現を著しく抑制することで弾性線維形成を抑制することを見出した。次いで、動脈管では弾性線維の形成が低下しており、EP4欠損マウスの動脈管では弾性線維の形成が大動脈化することを確認した。これらの結果は、PGE刺激が血管リモデリングに働く、新たな役割を示している点で重要である。 2)酸素化による血管内膜肥厚 出生後の血液中酸素濃度上昇に伴い、酸化ストレスによって、平滑筋から塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が分泌し、これがビアルロン酸分泌を促して、細胞遊走能・内膜肥厚が促進することを見出した。胎生期から出産後における酸素化が動脈管収縮ばかりではなく、bFGFを介して、血管リモデリングに関与していることを見出した。 本研究成果によって、内膜肥厚形成を含め、解剖学的閉鎖の分子機序が明らかになれば、従来の血管拡張収縮制御機序に基づく治療法とは異なる、新たな治療法の開発へとつながる。
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