研究概要 |
癌の存在する微小環境は、強力な免疫抑制が誘導されており、その誘導に癌細胞から産生されるSTAT3関連分子(IL-10, IL-6, VEGF, LIFなど)が関与し、免疫細胞の分化、活性化を阻害することで正常な(自然、獲得)免疫反応が阻害されていることが多数報告されている。我々は以前より接種局所に目的とする分子(抗原タンパク、酵素)を高濃度に細胞内導入させる新たな方法(R9-protein transduction domain含有融合タンパク)の基礎研究を行ってきた。この腫瘍塊内に接種する新たな方法は、ヒトに対する臨床応用が十分可能な新たな癌治療となりうる。我々はまず、腫瘍関連抗原タンパク(rR9-FCRL)と、免疫原性の高い(OVA)外来抗原にR9-PTDを含有させた融合タンパク(rR9-OVA)を作成、精製し、B16担癌マウスの腫瘍塊に接種した場合の抗腫瘍効果を比較した結果、rR9-OVAが圧倒的に抗腫瘍効果が高かった。この抗腫瘍効果は、OVA以外の高免疫原性外来抗原(rR9-LACK)を使用しても同様に確認された。また、これらの抗腫瘍効果にはCD8+T細胞が関与するが、CD4+細胞を抗体で除去するとこの抗腫瘍効果は増強した。また、R9-OVAを接種した群の中でも、完全拒絶マウスと非拒絶マウス(縮小群)の違いを解析している過程で、所属リンパ節におけるTh1 subset(Tim3陽性細胞)とTreg subset(FoxP3陽性細胞)の比率(Th1/(Treg ratio))と腫瘍効果の有意な相関を確認した。一方、STAT3 inhibitorとして我々が作成した分子標的薬(rR9-GRIM19)をB16担癌マウスの腫瘍塊に接種すると、所属リンパ節におけるTreg(FoxP3陽性細胞)の増加抑制が認められた。そこで、rR9-OVA+rR9-GRIM19とそのcontrol群の抗腫瘍効果を比較したところ、抗腫瘍効果の相乗効果と共に、所属リンパ節におけるTh1/(Treg ratio)の上昇効果が確認された。従って、担癌状態の癌免疫療法の治療効果を高めるには従来より行われている免疫誘導法の他、STAT3 inhibitorの様な免疫抑制を是正させる方法を組合わせる必要がある。
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