本研究は、1. 大家系を中心とした自閉症スペクトラム障害のサンプルによるCD38の遺伝子変異(SNP)の検討、2. CD38のSNPを有する自閉症スペクトラム障害とそれを有さない者との間の臨床精神医学的、神経化学的、神経生理学的、自律神経学的観点からの検討、3. CD38のSNPを有する自閉症スペクトラム障害へのオキシトシンの効果を検討する臨床試験である。またこれらの研究の前提として、ローカルな遺伝子バンクの設立、研究分担者が国際的診断基準であるADI-RおよびADOSのライセンスを取得し自閉症スペクトラム障害を厳密に診断することがある。 平成20年度の計画としては、自閉症スペクトラム障害の大家系を中心とするサンプルによるCD38の遺伝子変異(SNP:R140W)の検討、に主眼をおいて研究を進めた。その結果家系に集積したCD38のSNPの症例を発掘し、その症例においてオキシトシンの血中濃度が低いことをつきとめた。また1例のみであるが、この症例にオキシトシン噴霧剤を定期的に投与したところ、日常生活レベルで自閉症症状の改善が認められた。 さらに臨床遺伝学研究では、適切な診断基準の確立が重要である。本年度は研究連携員が、ADI-RおよびADOSのライセンスを取得のための国際研修に参加した。詳細な診断基準の取得とともに、遺伝子研究ではより包括的な臨床概念が求められる可能性がある。このようなことを含めオキシトシンの血中濃度の低下などの症状を、今後遺伝子異常との関連で観察する必要があると思われた。
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