平成21年度は、病型・罹病期間・抗精神病薬の服薬量・死後時間などの臨床プロフィールが明らかな邦人統合失調症死後脳サンプルについて、質量顕微鏡法による解析を主に脂質をターゲットとして実施した。これまでの通常の顕微鏡は物質同定のためには蛋白質であれば免疫組織化学的手法、mRNAであればin situ hybridizationを用いた手法で間接検出を行っており、これらの手法では一度に一つ、多くても数種類のものしか観察できない上、基本的に既知のものしか観察できなかった。質量顕微鏡法では質量で観察し、原理的には重さのあるものすべてが同時に観察されるため、蛋白質、DNA、RNA、脂質、糖鎖、糖脂質、あらゆるものの分布が同時に同定観察可能である。本年度の解析でも、特定の脂質を観察するのではなく、統合失調症死後脳サンプルに含まれる脂質を網羅的に測定した。現在、得られた結果と統合失調症の病型・罹病期間・抗精神病薬の服薬量・死後時間などの臨床プロフィールとの相関関係を求め、各分子と臨床データとの関係を同定していく作業中である。今後は同様の手法を用い、ドパミン系・グルタミン酸系・GABA系に関連した分子についても検討する予定である。本研究により、統合失調症病態の鍵となる分子や治療標的分子の同定に焦点が結ばれ、ヒト死後脳マップの作成、バイオマーカーの探索など診断・創薬の可能性を拡大する有力な手がかりを得ることができ、将来的にはテーラーメード遺伝子治療を含めた発症予防まで幅広い発展、展開が期待できる。
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